
朝日新聞に「The Asahi Shinbun Globe」という8ページほどの、新聞とはちょっと違うという顔をした紙面が時々挟み込まれている。紙も白いし、タイトルや紙面のデザインが「今」を感じさせるということもあり、何となく読み始める。タイトルからするとBSなどで見るワールドニュースの新聞版かなという感じだが、よく見るとそうではない。ただの「海外ニュース」ではなくて「グローバル」を想起させる記事が並んでいるわけで、経済、文化、身の回りの物事など、いろいろあってついつい読んでしまう。その中で「先読み世界経済/「公」を知るリーダーを育てよう」という見出しが目に飛び込んできた。国際日本文化研究センター所長猪木武徳氏の提言。
・・日本には将官クラスより下には優れた人材が多い。しかし欧米と比べると大将・中将には傑出したリーダーが少ない。そこにある二つの問題点。それはリードすべき立場にある者が、リーダーとしての役目を果たさないこと。そして組織の中で「公」の観点から自分を位置づけることが出来ない者が多いという問題。・・
公の観点から自分を位置づける・・なんてことを言われると、無限の空間の中にぽつんとある自分が見えてくる。自分は会社などの決まった組織に属していないので「公」とか言われると逆に、国民とか民族とか人間とかいう大きなレベルでこのことを考えてしまうからなのかも知れない。敢えて探すなら大学という組織の中で自分を位置づけることが出来るかも知れないが、それでも今自分がかかわっている授業はほぼ100%自分の考えで自由にやっていて、大学といえどもまったく外からの制約を受けていないからこれもまた社会に出て行く生徒と自分というわかりやすい位置づけの中で考えることになる。その他にはバンドなどの最小単位の「社会」の中での位置づけということも考えられるが、いずれにしろ私のような「自由業」の者は最初から社会とか国とか文化という単位で物事を考えないことには話はまとまりそうにない。
もう15年以上・・だと思う・・僕の髪の毛を切り続けてくれている人がいる。青山に店を持ち、ピアノの上柴はじめさんやギターの萩谷清さんもそこでお世話になっている。彼Sさんが髪の毛を切りながら時々印象に残る話をしてくれる。世界は多くの歯車が絡み合ってそれが一つの動きになっている。そして自分はその歯車のひとつとして世界の働きに貢献をしていると思っているんですよ・・と。その彼が今度はこんなことを言った。この歳になると後進の指導に当たる歳なんだけど生徒達が、先生はこの歳でまだ現役を続けるんですかと言うから、「俺は日本の宝なんだ」と言ったら、生徒達はきょとんとしていたと・・。確かにSさんは公の観点からの自分の位置づけをして、自分を見出しているひとなんだと思う。
この記事のライター猪木氏は「リーダーは憧れや理念を指し示す人物でなければならないから公の観点から自分を位置づける人でなければならない」と言い、最後に「公智」「公徳」を鍛え、他人の立場に身を置き、世界の「相場」を知り、将来の社会や国家のことに思いを馳せるような人材を日本はもっと育てなければならない。そのための「教養教育」の魅力的カリキュラムを準備する大学が生まれることを強く願う・・とあった。教養教育といわれると自分のイメージの中では脱線してしまいそうだなどと考えていて、、実は一週間経ってしまった。すでに次の「GLOBE」。いきなり「子どもの教育」というカラフルなページ。
「今からちゃんと、勉強しておかないとね」。お母さんとお父さんは、いつもそう言う。なんで、と聞くと「大人になってから困らないため」だって。本当かなぁ。・・・・と見出し。(その記事はまだ読んでいないが・・)
今ごろになって僕は司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読み始めた。明治の日本人がものすごい勢いでヨーロッパの知識を吸収して、たかが二十数年の間に清国を破ってしまうまでの力を備えてしまう。その時代、学問をすること、立身出世をすること、、そのことがそのまま国益に直結するという意識が疑いもなく若者の基本としてあった。若者は思いっきり研鑽を積み、それを文字通り国益に生かすことが出来た。恥ずかしながら余り本を読まない私は司馬遼太郎は初めて。歴史にはまったく興味がなかった自分、、もっと若い頃にこういう書物を読んでいればと、、。話が逸れた。このこと、学問・・、それは明治に限ったことではない。とにかく・・。世の親たちよ、、、子どもに「なぜ勉強しなきゃいけないの?」と聞かれたら「大人になってから困らないため」なんて言わないで、こう答えなさい。「勉強して国を動かす人になるためだよ。勉強して世界を変える人になるためだよ。勉強して多くの人々に良いものをもたらす人になるためだよ。」と。
先のリーダーの問題、あれは大学の「教養教育」のカリキュラムの問題じゃなくて、家庭の幼児教育の問題じゃないのかなあ。